JCI日本青年会議所医療部会

部会長所信


【初めに】

 2023年に日本青年会議所医療部会は60周年を迎え、人でいうところの還暦となりました。積み重ねてきた医療部会の歴史的重みを背負いながらも、めまぐるしく変化するこの時代の潮流に合った組織へと変容させていくことが、より有益な組織へと昇華するための必要条件であると考えます。残すところは残す、そして、創造するところは創造する、節目の年となる2024年医療部会はRe:Bornをテーマに活動していきます。
医療を志したとき、そこに求められるのは、他者への献身です。滅私奉公という言葉が万古から存在するように、現在の医療業界は全医療従事者の私利を捨てた献身的な行動により持続できているところが多いといわれています。実際にCOVID-19のパンデミックでは、少ない資源の中で医療従事者が自身や家族は二の次として他者へ身を尽くし責務を全うしていたことが報道されたりもしていました。
我々、医療部会は、その医療従事者を束ねるリーダー的立場の集団として、現状の医療業界を医療従事者にとって安心できる業界へ、より良く変革していく使命があります。働き方改革や多様性が叫ばれる世の中で、持続可能な医療を守っていくためには、医療従事者にとって本当に働きやすい環境とは何かを考え、実現に移すことが重要です。様々なデジタル技術を駆使し、作業効率の向上を図ることで、一人一人の負担を減らし、それ以外の時間において、本来、人間が心底求めているはずの人生の楽しさや豊かさを満喫できるよう生活の質(Quality Of Life:QOL)の向上を果たすことができる環境を作り上げなければなりません。まずは、我々が、(青年としての)新しい知恵と情熱の力で、より良い業界に生まれ変わらせる使命があることを再認識して、業界を率先して医療DXを実施していきましょう。


【求められる組織像】

 今、医療部会は危機に瀕していることをあえて宣言します。それは、各事業への参加率が低下し、有益な組織であると実感している会員数が減少していることから明らかです。COVID-19によるパンデミックの影響もあり、ここ数年、医療部会としての活動は自粛や縮小をせざるを得ない状況でした。医療部会を名乗る以上、我々の活動によって、さらなる医療資源のひっ迫をひき起こすことは決して許容されず、このような状況下においては、致し方ない判断であったと思います。(諸先輩方が下された判断や行動は真っ当なものであったといえます。しかし、想像以上に長引く悪影響によって、各会員が自身の社業をなんとか遂行することで精いっぱいとなり、それが医療部会としての勢力低下につながったことは否めません。活動したくてもできない状況で絶対的な活動量の低下そのものが、現役会員の参加意欲を徐々に削いでいきました。こういった事態を打破すべく、新たな視点に立ったうえで、行動を起こすことが、現在の医療部会には求められていると私は考えます。
ミクロ的な視点でしか物事を判断ができない状況となり、自身だけが最悪な状況下にあると思い込んでしまっては、医療業界を引っ張っていくリーダーとしては失格ではないでしょうか。自身のことだけではなく、医療業界全体の行く末を考えて積極的に行動すれば、おのずと、自身の社業も復興していくものだと経験則的にいえます。今までの必死になっていた「自分」という一人称の視点から、「社会」というマクロな視点に立つことで新たな明るい豊かな社会が見えてくると、私は確信しています。一人一人が、この危機的状況から何とか脱すべく、自らも医療部会を必要とし、さらには社会からも必要とされる組織へと躍進させようとするその気概こそ、新たな一歩を踏み出す今、最も必要なことではないでしょうか 。


【組織としての持続性】

 組織は誰のためにあるのでしょうか。参加するメンバーのためだと言ってしまえばそれまでですが、それだけではないと私は考えます。対外的な影響力を持つことこそが組織としての存在意義ではないかと考えます。私利によって動いてしまうと、組織内で利害関係が発生し、やがては衰退し、消滅することになるでしょう。利他でしか組織は機能しないのです。つまり、利他であり続けることこそが、唯一無二の持続可能な組織であるための必須条件といえます。利他的な行動原理が働けばこそ、献身につながるのです。ただし、自己犠牲の上で成り立つ献身は持続しません。自身が健康で幸せであることは、すべての行動における第一原則です。
ではどうすれば、他者への献身と自己の幸福が両立するのでしょうか。私が好きな話に三尺三寸箸という話があります。地獄と極楽での食事のお話です。どちらにも、約1メートルもある長い箸と、豪華な料理が山盛りにならんでいます。食事の状況は同じはずですが、地獄の人たちはやせて貧相な様子で、極楽の人たちはふくよかで幸せそうな顔をしています。その違いは何でしょうか。それは、行動原理の違いにあります。地獄の人たちは必死で長箸を自らの口へあてがい、自己中心的に争います。極楽の人たちは、 「どうぞ」と言って、長箸を使って、食卓の向こう側の人に食べさせます。相手もありがとうと言い、今度は自分に食べさせてくれます。利他的に行動しているのです。他人を思いやり、今度は思いやられ、感謝しながら楽しむ姿勢がそこにはあります。利己的か利他的か、どちらが幸せかということは最早明白でしょう。
相手から感謝される組織になること、つまり、感謝されるほどの行動を実践していくこと、これが、対外的な影響力につながるといえます。この影響力が大きくなればなるほど、我々医療部会が社会に貢献できる度合いは大きくなっていきます。できることの幅が増えれば、参加する会員の満足度は自然と上がり、有益な組織である認識をもとに参加率向上につながるといえます。つまり、献身は自分を幸福にするという発想をもつこと、考え方を変えていくことが至上命題となるのです。中長期的なビジョンのもと、組織の信念をも含めた抜本的な構造改革を実践していくことが、医療部会が生まれ変わっていくために必要だと考えます。


【海外との友情、そして使命】

 18年目を迎えたカンボジアミッションは今、変革の時を迎えています。少しずつカンボジアのJCIとの関係性が構築され、加えて、日本青年会議所医療部会の活動に賛同してくれる現地の理解者も増えていることには、先輩方から受け継いできたこの事業の功績を非常に重く感じ取ることができます。
2023年カンボジアミッションも諸先輩方の支援により、なんとか成功裏に収めることができました。子供たちの笑顔や、ボランティアの人たちの活力、そして町の人からの感謝の言葉を聞き、胸がいっぱいになったカンボジアミッションでしたが、そこに参加した私に、ふと、湧いてきたのは、「このまま我々が一部の子供たちへ手を貸し続けることで、はたしてカンボジアは根本的により良くなっていくのか」という問いでした。
この20年でカンボジアはめざましい発展を遂げています。この20年のカンボジアの発展には目を見張ります。もちろん都市部に限ったことであり、地方に行けば、いまだに不衛生で低栄養な子供たちが貧困の中で暮らしています。我々には想像もつかないような状況の中で生活し、そこから、様々な要因によって抜け出せずにいる子供たちもいまだ多数存在しています。その光景を目の当たりにすれば、医療従事者として、献身的な気持ちが芽生えることは至極当然のことであるといえましょう。
カンボジアミッションで救われた子供がたくさんいることは医療部会として非常に誇らしいことで、確かに意義のあることをしていると自負しています。しかし、「釣り方を教えないと、魚を与えるばかりでは本当の意味で救われない。」という寓話があるように、私たちがこのまま直接手を加え続けるだけで本当にいいのでしょうか。
青年会議所は本来、仕組みを作りそれを社会に還元する組織です。つまり、持続可能性を考えたとき、我々がこのまま実行し続けてしまえば、カンボジアが自ら考え、行動する機会、すなわち自立の機会を損なうことになりかねません。日本青年会議所医療部会の負担のまま実行し続ければ、様々な発展と成長の機会を提供せず、奪い続けることになってしまうのではないかと考えました。もちろん、カンボジアのJCIも自身たちでなんとか自立しようと立案、実践しています。その自助努力を全力でバックアップすることこそ、本当の意味での友情であるといえます。この事業を持続可能なものとするべく、カンボジアのJCIへ事業を移管し、次に我々がすべき行動を考える、その年にしていきたいと考えます。
諸先輩より受け継いできたこの誇りある伝統と友情を次のステップへ昇華させるための新たな一歩として、このカンボジアミッションのよいところを残しつつ、カンボジアとの友情のあかしとして彼らにミッションを継承し、より持続的で自立性のある事業へと、生まれ変わらせる必要があります。我々を必要とする地域はカンボジア以外にもまだまだたくさん存在します。必要とされる場所で青年会議所らしく医療的な改善を施すための仕組みを作るべく、新たな地域での取り組みとしてアップデートされた海外ミッションを実行して参ります。


【結びに】

 還暦を迎えた医療部会がより魅力的な組織へと生まれ変わるために、苦しいことも多々あるでしょう。それは冒頭で宣言した危機的状況がすでに物語っています。我々は本当に、医療従事者のQOLが向上する環境をつくることができるのかという不安があることは、否めません。しかし、それでもやらなければならないのです。利他の精神をもって、医療部会を再生させ、次世代へと想いのバトンをつないでいくことこそが、今まで60年も想いを紡いできてくださった諸先輩方への最大の恩返しになると信じています。
生まれ変わるということは、なにも今までの歴史を無下にしたり否定したりするという意味ではありません。踏襲すべきは伝統として守り、新たに創造すべきは革新していくということです。伝統芸能や武道においても守破離という修行の段階があります。医療部会も還暦を迎え、伝統をよい方向へ創造的に破壊していくタームへと移ってきているのではないでしょうか。医療部会に参加するメンバーは、皆それぞれ、いろいろな場所で様々な経験をしてきた百戦錬磨の人たちです。他で学んだことを医療部会でも実践することで、守破離の「破」を体現し、新しい時代に合った医療部会へと生まれ変わりましょう。


日本青年会議所医療部会部会長

2024年度 日本青年会議所医療部会
第61代 部会長 南辰也